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「覚悟はあるか?」運・鈍・根の哲学と志村ふくみの染織の世界


「運、鈍、根」


木工芸で初の人間国宝となった黒田辰秋さんの言葉は、染織家・志村ふくみさんに大きな影響を与え、彼女のものづくりを支えた哲学です。


この言葉は、志村ふくみ100歳記念展を訪れた私にも、深い問いを投げかけました。


今回は、その展示で感じたことと、私自身の織りに対する思いを綴ります。



運・鈍・根


「鈍」とは、工芸の仕事は鈍いということ。

モノを通しての表現だから鈍な仕事なのだそうです。だからこそ誰の助けも受けずにコツコツたゆまずする。もう、これに尽きるというわけ。


「運」とは、自分にはこの道しかないと思い込んで、ただひたすらにするということ。 「運にませる」ということではなく、自らを「運んでいく」ということなのでしょう。とにかく自分を動かしていくのですね。


「根」とは根性の根。

粘り強く、繰り返し繰り返しやること。


どの言葉も非常にどっしりと重く響きます。


工芸家にとって、おりてきたインスピレーションを一瞬で表現することは難しい。

素材を吟味して、材料と親しくなって、いろいろなプロセスを経て熟成させていくものだから、忍耐力を持ってコツコツと取り組むしかないという教えです。


「そういう覚悟がおまえにはあるのか?」


私にも迫られる瞬間がありました。



志村ふくみの世界へ


2024年12月。

もう半年が経ってしまいました。


大倉集古館で染織家志村ふくみさんの100歳記念展が開催されました。


展示は二部制で、前期と後期で展示が入れ替わるという構成でしたが、私は前期のみを鑑賞。数十点もの作品が並ぶ中、「光の道」や「月の道」、「天蚕の夢」や「竜神」と「沖宮あやの衣装」は特に心に残りました。


改めて、着物は糸と色が織りなす一枚の絵なのだと思いました。

それぞれの着物は、秘められた物語に耳を傾けられるのを静かに待っているかのようです。


絵をまとう日本人の美的感覚———

その繊細で奥深い感性こそ、無形の遺産と呼ぶにふさわしいのではないでしょうか。広げられた着物一着一着が凛とした気品を放ち、時空を超えた美しさで見るものの心を奪いました。



大倉集古館は初めて。素敵な置物がお出迎え。
大倉集古館は初めて。素敵な置物がお出迎え。

織れ、織れ

おまえの色を見せてみろ


館内の撮影は禁止だったので、作品をお見せしながら書くことができないのは残念ですが、「光の道」という作品の前に立った時、声が聞こえた気がしました。


できるならやってみろ

怖いんだろう

怖いんだろうなぁ


私は挑発されているのか、それとも、この展示に導かれた必然の中で、自分が求める言葉を聞いているだけなのか。



大倉氏、大きかった。私もこういう恰好で座るの好きです(笑)。
大倉氏、大きかった。私もこういう恰好で座るの好きです(笑)。



そして「月の道」という作品からは

やさしい月の音が聞こえてきました。


ずいぶん前に博物館で宇宙線の音を聞いたことがあります。


月の音が聞こえるという方も実際にいらっしゃるので、ふくみさんが着物に転写した月の音を私が聞くことは何もおかしなことではないのかもしれません。


月の音が伝わるほど研ぎ澄まされた感性と表現力を持っているふくみさんの姿を神々しく思い描きました。




大倉集古館のエントランス
大倉集古館のエントランス

「水の想い出」の前に立つとこれまでとは全く違う感覚を味わいました。


織りたい、織りたい

この生命の渇きを

織ることで潤したい

この地球を

色とともに味わいつくしたい


こみあげる想いにしばしひたりながら、私はどうやったらまた織ることができるだろうかと考えていました。


そして、何を織りたいのかとも。


「織る」とひと言で言っても実にたくさんの技法があって、さらにそこに素材を掛け合わせると無限の布が生まれます。ふくみさんは草木で染めて絹糸で織るという選択をされました。


私は?



高層ビルに囲まれた異世界の外観も美しい
高層ビルに囲まれた異世界の外観も美しい

運、鈍、根———


この言葉を北極星のように心に掲げ、自分の選んだ道を信じて、たゆまずコツコツと歩んでいきたい。


ふくみさんの展覧会から半年経った今、冷静にそう思います。


この言葉は手織りだけでなく、私を私らしくしてくれるあらゆることに通じる指針になりそうです。たとえば、休止中のYouTubeチャンネルやコーチングの学び。これらにも真摯に向き合っていきたいと思っています。


手織りでは、実家の一室を借りて工房を始めたところです。

この新たな一歩には、大きな心境の変化も伴いました。その思いについては、また別の機会にブログで綴りたいと思います。


これまでさまざまな挑戦をしてきました。その中で手織りに対する情熱だけはどんな時も決して揺らぎませんでした。まるで前世からの続きのように、糸と織りに心を奪われるのです。(笑)


運、鈍、根


今日も自分のために手を動かします。

糸の一本一本が、巡り巡っていつか誰かの心に響く布となることを願って。






 
 
 

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